
皆さんが手に取る化粧品は、何十、時には百を超える成分で構成されています。成分表に並ぶ見慣れないカタカナの羅列は、難解な暗号のように見えるかもしれません。しかし、一つひとつの成分には、それぞれに明確な役割と目的があります。
この「Cosmetic-Dictionary」では、そんな化粧品という精密な設計図の謎を、開発の最前線に立つ私の視点から解き明かしていきます。この連載を通して、皆さんが化粧品を選ぶ際の新たな視点を得て、より本質的な知識を身につけていただければ幸いです。
そして記念すべき第1回のテーマは、化粧品の根幹をなす「基剤(フォーミュレーションベース)」についてです。
化粧品研究者が最初に考えること
私が新しい化粧品の開発に着手する際、まず何から始めるかご存知でしょうか。
それは、「どの成分を、どのような比率で配合するか」という緻密な設計です。例えるなら、料理人がレシピを考えるように、建築家が設計図を描くように、私たちは成分の組み合わせを考え抜きます。
皆さんがお使いの化粧品も、例外なくこの設計図に基づいて作られています。成分表示の先頭に記されていることが多い水や油は、その設計図の「骨格」となる成分です。
しかし、水と油だけでは、あの心地よいテクスチャーや安定した機能性は生まれません。この二つの異なる性質を持つ成分を、いかにして一つの製品としてまとめ上げるか。その鍵を握るのが、化粧品の「接着剤」とも呼ばれる「界面活性剤」という成分です。
「界面活性剤」は、悪者ではない
「界面活性剤」と聞くと、洗浄力が強く肌に刺激がある、というイメージを持つ方がいるかもしれません。しかし、それは界面活性剤が持つ役割の一部に過ぎません。
私たちが開発する化粧品において、界面活性剤は非常に重要な役割を果たします。その本質は、水と油のように混ざり合わない物質の境界(=界面)に作用し、均一に混ざり合った状態(=乳化)を作り出すことです。
この界面活性剤の働きこそが、化粧水、乳液、クリーム、ファンデーションといった製品の多様なテクスチャーや、肌へのなじみやすさ、そして安定性を生み出しています。
私たちは、この界面活性剤の特性を最大限に活用し、製品の「テクスチャー」と「機能性」を両立させています。この技術こそが、私たちフォーミュレーターの腕の見せ所なのです。
なぜ化粧水はさらさらなのに、クリームはしっとりするのか?
その答えは、すべて界面活性剤の絶妙な働きにあります。
続きの記事では、この界面活性剤が持つ魔法のような力、そしてその活用方法について、私が研究者として培ってきた知識を惜しみなく公開します。
- なぜ界面活性剤は「接着剤」になるのか?その科学的仕組み
- テクスチャーはどのようにして生まれるのか?研究者だけが知る秘密
- 賢い消費者のための、界面活性剤の見分け方と製品選びのヒント
これらの内容を、より深く、より実践的に解説していきます。
この続きは、ぜひCosmetic-Dictionaryの有料コンテンツでお楽しみください。
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