スクワランとは?スクワレンとの違いから紐解く効果と正しいコスメ選び

うるおい肌に欠かせない保湿オイル「スクワラン」。本記事では、名前がそっくりな成分「スクワレン」との決定的な違いや、お肌をすこやかに保つ効果についてわかりやすく解説します。さらに、美容マニア向けに化学的な構造や最新の皮膚科学データも網羅。あなたにぴったりのコスメ選びがわかります。

スクワランってどんな成分?お肌に欠かせない理由

お肌の乾燥を防ぐためには、スクワランが配合された化粧品を選ぶことがとても大切です。

なぜなら、スクワランはもともと私たちの肌の中(皮脂膜:ひしまく という肌の表面を覆う天然のうるおいベール)に含まれている成分と同じ仲間だからです。例えば、生まれたばかりの赤ちゃんの肌がいつもみずみずしくて柔らかいのも、このうるおいのバリア成分がしっかり肌を守っているからです。

そのため、肌の乾燥やカサつきが気になる人は、スクワランを毎日のスキンケアで補うことで、デリケートな肌をすこやかにキープできます。

スクワランと「スクワレン」は何が違うの?

スクワランとスクワレンの最大の違いは、「空気中で傷みやすい(酸化:さんかという品質の劣化がしやすい)かどうか」です。

スクワランは、スクワレンに「水素(すいそ)」をくっつける加工(水素添加:すいそてんか)をして、空気中で傷みにくくした成分だからです。もともとのスクワレンは肌に良い効果がありますが、そのまま空気に触れるとすぐに傷んでしまい、かえって肌に刺激を与える物質に変わる弱点(未飽和:みほうわな状態)があります。

したがって、化粧品として長持ちし、毎日安全に使えるように工夫された加工済みの「スクワラン」が私たちのコスメに広く使われているのです。

スクワランの化学的構造と起源別の特徴

スクワランは、極めて高い化学的安定性と優れたエモリエント効果(皮膚を柔軟にする作用)を併せ持つ飽和炭化水素の油剤です。

スクワラン(IUPAC名:2,6,10,15,19,23-hexamethyltetracosaneは、分子式 C30H62(分子量 422.8)を持つ枝分かれ構造の飽和鎖式炭化水素です [1]。元々は深海ザメの肝油中に存在するスクワレン(C30H50)を水素添加することで製造されてきましたが、近年はワシントン条約などの海洋資源保護の観点から、植物由来や合成スクワランの利用が主流となっています [1]。

起源別の物性と特徴(確実度:◎)

植物性スクワランはオリーブ果実、コメヌカ、ゴマなどの植物油から得られたスクワレンを水素添加して精製され、サメ由来のスクワランとほぼ同等の物性を示します [1]。また、イソプレンを化学重合して作られる合成スクワランは、天然由来のスクワランと同等の感触・物性を持ちながら、不純物が少なく酸化安定性に極めて優れているという特徴があります [1]。

原料名比重屈折率主な組成・特徴
スクワラン(サメ由来)0.807〜0.8101.451〜1.457皮膚への浸透性が良く、鉱物系炭化水素に比べて油性感が少ない [1]
植物性スクワラン0.813〜0.816サメ由来と性質は同じ。植物性指向の製品に汎用 [1]
合成スクワラン0.808〜0.8141.451〜1.457酸化安定性に優れ、基本的な性質・用途は天然と同じ [1]

皮膚表面におけるスクワレンの酸化メカニズムと肌トラブル

皮膚表面に分泌された未飽和のスクワレンは、紫外線や外部刺激によって容易に酸化され、重篤な皮膚障害を引き起こすトリガー物質(引き金)となります。

1. 一重項酸素との反応性と過酸化脂質の生成(確実度:◎)

皮脂の主要構成成分であるスクワレンは、一重項酸素(紫外線などによって発生する活性酸素の一種)に対する反応速度定数が 56.2×10^4 M-1s-1と、オレイン酸やリノール酸などの他の不飽和脂肪酸と比較して1オーダー以上高く、皮膚表面における最初の酸化ターゲットとなります [4]。

紫外線に曝露されることで、スクワレンは一次過酸化物であるスクワレンモノハイドロパーオキシド(Sq-OOH または SQOOH)へと変化します [2][4]。この Sq-OOH は強力なコメド形成能(毛穴を詰まらせてニキビの初期症状を誘発する性質)を持っており、他の一般的な過酸化物質よりも顕著にコメドを発生させることが実証されています [5]。また、頭皮の脂質解析データにおいては、フケ発生者の頭皮環境で SQOOH の比率が有意に高くなっていることが確認されており、表皮細胞(ケラチノサイト)の炎症反応を誘発する因子として示されています [6]。

2. 紫外線および酸化チタンによる酸化促進リスク(確実度:◎)

スクワレンの酸化は、太陽光(UVA・UVB)の照射時間に依存して連鎖的に加速します [2]。さらに、ファンデーションなどのメイクアップ化粧品に配合される「酸化チタン」は、その高い光触媒活性(光を浴びることで周囲を酸化させる力)によって、スクワレンの過酸化を著しく促進させることが研究データで明らかになっています [3][7]。

未被覆(コーティングされていない)の酸化チタンをスクワレンに混合してUVAを照射した場合、ヘアレスマウスの皮膚では表皮の肥厚や炎症、皮膚の角化といった肌荒れ障害が引き起こされますが、チタン表面をシリカ等で表面被覆することで、このスクワレン過酸化反応および皮膚の炎症反応を有意に抑制できることが示されています [3][7]。

化粧品処方におけるスクワランの機能特性

スクワランは化粧品処方において、優れたエモリエント効果を発揮するだけでなく、製品全体のテクスチャーや安定性をコントロールする上で重要な役割を担っています。

1. 優れた浸透性と軽涼なテクスチャー(確実度:○)

流動パラフィンなどの石油系(鉱物系)炭化水素と比較して、皮膚に対するなじみ・浸透性が非常によく、油っぽさやベタつきの少ない、広がりのよい高級感のある感触を製品に付与します [1]。

2. ワックス混合系における凝固点降下作用(確実度:◎)

化粧品開発(フォーミュレーション)において、スクワランは固形ワックス(パラフィンなど)の結晶構造に大きな影響を与えます。降温時における結晶化の挙動を調べた示差走査熱量測定(DSC)のデータによると、パラフィンに対してスクワランを混合した系では、シリコーン油などを混合した系と比較して、顕著な凝固点降下(約20℃の差)が認められます [8]。

【処方開発の視点】

この凝固点降下特性により、口紅や固形・半固形のクリームにおいて、ワックスの粗大結晶化を抑制することができます。これにより、製品の経時安定性を高めると同時に、肌にのせた瞬間にするすると滑らかに伸び広がる極上のテクスチャーを実現しています。

FAQ

  • Q1:スクワランオイルはニキビの原因になりますか?
    A1: いいえ、化粧品に配合される精製された「スクワラン」は、非常に安定した飽和炭化水素であるため、ニキビの元(コメド)になりにくい成分です。ニキビの原因となりやすいのは、お肌から分泌される未飽和の「スクワレン」であり、これが紫外線によって酸化されてできた過酸化物質(Sq-OOH)が毛穴を刺激することが問題となります。
  • Q2:サメ由来と植物由来のスクワランで、効果に違いはありますか?
    A2: 保湿効果や肌へのなじみやすさ、物性において本質的な違いはありません [1]。ただし、ヴィーガン志向や環境配慮(海洋資源の保護)の観点から、近年はオリーブなどから採れる植物性スクワランや、不純物の極めて少ない合成スクワランを選択するブランドが世界的に増加しています [1]。
  • Q3:スクワランをお肌に塗ってから外出すると「油焼け」を起こしますか?
    A3: いいえ、スクワランは極めて酸化安定性が高く、熱や光によって劣化しにくい性質を持っています [1]。そのため、日中に塗布して太陽光線を浴びても、オイル自体が原因で油焼け(酸化による色素沈着や皮膚炎)を起こすことはありません。ただし、スクワラン自体に紫外線カット効果(SPF)はないため、日焼け止めは別途併用してください。

まとめ

スクワランは、肌本来のバリア機能を支える極めて安全で安定した保湿成分です。一方、名前の似た「スクワレン」は紫外線や酸化チタンの光触媒作用によって容易に酸化され、ニキビや肌荒れ、フケの原因となる過酸化脂質に変化するリスクがあります。日々のスキンケアには、酸化トラブルの心配がなく、優れた浸透性とエモリエント効果を誇る高品質な「スクワラン」配合のコスメを賢く取り入れましょう。

参考文献リスト

  • [1] 日本化粧品技術者会 編 (2003)『化粧品事典』丸善, pp.101-104.
  • [2] 小山純一, ほか (1991)「太陽光線により皮膚上に生成する過酸化脂質の酸化防止剤による抑制」『日本化粧品技術者会誌』24巻3号, pp.202-204.
  • [3] 著者名記載なし (1999)「ファンデーションによるUV照射時のスクワレン酸化」『日本化粧品技術者会誌』33巻3号, pp.297-299.
  • [4] 著者名記載なし (1997)「皮脂脂質の一重項酸素反応速度」『日本化粧品技術者会誌』31巻4号, pp.254, 455.
  • [5] Chiba, K., et al. (2000) “Comedogenicity of Squalene Monohydroperoxide in the Skin after Topical Application”, Journal of Toxicological Sciences, 25(2), pp.77-83.
  • [6] Jourdain, R., et al. (2016) “Exploration of Scalp Surface Lipids Reveals Squalene Peroxide as a Potential Actor in Dandruff Condition”, Archives of Dermatological Research, 308(3), pp.153-163.
  • [7] 石神政道, ほか (1998)「ラジカル捕捉天然素材の探索」『日本化粧品技術者会誌』32巻3号, pp.292-299.
  • [8] 著者名記載なし (2020)「ワックスとオイルの混合系における凝固挙動」『日本化粧品技術者会誌』54巻1号, p.115.

著者プロフィール

藤川 純一(Junichi Fujikawa)

ルリユール合同会社 代表社員 / 化粧品研究者(フォーミュレーター)

20年以上にわたり化粧品処方開発に従事。2014年、西宮市に自社ラボと製造所を設立し、「作る・売る・支える」を自ら体現する。毎月、百貨店の催事店頭に立ち、延べ数千人の肌悩みに直接向き合う。原料原液シリーズ「GRAND CONC.」を題材に、悩みの原因を皮膚科学の視点から紐解き、「難解な専門知識を、今日から使える知恵に翻訳して伝える」ことを信条とする。

  • 保有許可: 化粧品製造業、化粧品製造販売業
  • 発信媒体: Cosmetic Dictionary、Podcast「美の深層」
  • 顧問実績: 薬事顧問、化粧品ブランディング、処方開発アドバイザー

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